人間でも骨肉腫があるように、犬にも骨肉腫があります。
骨肉腫とは文字通り骨に肉腫と呼ばれる悪性の腫瘍ができてしまう、命にかかわる病気です。
愛犬が足を引きずる、足が腫れるなどの症状が現れたとしたら、もしかしたら骨肉腫かもしれません。
ここではそんな骨肉腫の症状をはじめ、治療法や寿命などについても詳しく解説していくことにします。
骨肉腫とは
骨肉腫はガンの中でも重い病気として知られています。
犬が一度発症してしまうと人間と違って進行も早く、生存率が極めて低い肉腫です。
ガンは通常、細胞がガン化してしまうことで病状が進行していきますが、骨肉腫は骨の細胞がガン化してしまします。
そのため医師によっては分かりやすく「骨のガンです」と説明されることもあります。
体重の重い大型犬が発症することが多く、もちろん腫瘍ですから良性の可能性も捨てきれませんが、他のガンと一番異なる点は悪性の可能性が高いことです。
骨にできる腫瘍の80%から90%は悪性であるため、骨肉腫が発見された場合には、医師から覚悟が必要と告げられることも少なくありません。
骨肉腫の症状
骨肉腫の症状としてよく見られるのが軽度の跛行です。
跛行とはつまり足の運びが悪く、左右前後にぶれる歩行のことですが、分かりやすく言うとびっこを引いた状態を言います。
びっこの症状は骨肉腫に限った症状ではありませんが、骨肉腫の場合その80%が四肢にできることもあり、代表的な初期症状となっています。
稀なケースではあごの骨に発症することもあり、骨肉腫は進行がとても速く、高い確率で肺に転移してしまうことでも知られているガンです。
ガンが発見されたときには、すでに肺への転移が見られるケースも少なくありません。
痛みが強く出るため、犬にとってもきつい病気と言えるでしょう。
骨肉腫の原因とは?
骨肉腫の原因について詳しいことは分かっていません。
ですが、大型犬への発症が多いことから見てもそこに原因があることは伺い知れます。
考えられる原因は以下のような事柄です。
- 体重と犬種
- 年齢
- 骨折
それではひとつずつ詳しく説明していきます。
体重と犬種
骨肉腫の発生確率は、10㎏未満かどうかで違っています。
10㎏を超える犬種の骨肉腫の発生率はそうでない犬と比べ150倍もの発生率が確認されています。
つまり、体重が重ければ重いほど、骨肉腫の危険性が上がることになります。
しかし、体重が10㎏に満たない犬でも骨肉腫の発症事例がないと言う訳ではありません。
ただし、悪性の可能性が大型犬と比べ低くなっています。
大型犬が80%以上に対し、小型犬の場合50%とその確率も半々で、発症個所も四肢ではなく体軸骨が多くを占めています。
ゴールデン・レトリバー / ラブラドール・レトリバー / グレート・ピレニーズ / シベリアン・ハスキーなど
上記のように大型犬は骨肉腫の発生も多く見られていますので、飼い主さんは特に注意してあげる必要があるでしょう。
年齢
骨肉腫が多く見られる年齢は、7歳から8歳の成犬です。
小型犬や中型犬の場合7歳は人間でいう44歳ぐらいですが、大型犬の場合成長も早いため約54歳と言われています。
人間でも40歳50歳を超えたころから健康診断で生活習慣病を指摘されたり、長生きできるようにがん検診を受ける方も増えると思いますが、やはり目には見えなくても体の中ではゆっくりと老化が始まる時期です。
この頃に犬も骨肉腫が多く見られます。
やはり年齢的な老化も人間のがん発症率と同様、何らかの原因となっているのかもしれません。
しかし、人間の骨肉腫は若年層に多く見られます。
犬も2歳(人間で言ったら20歳前後)の若い犬にも発症が見られるようですので、この関係性については不明です。
骨折
骨肉腫の原因ははっきりと解明されていないませんが、骨折して金属プレートを入れることが原因ではないかと考えられています。
金属が腐食して、体の中で融解し、その成分が引き金となって骨肉腫を発症させるという説なのですが、これにも明らかな根拠はありません。
ですが、骨折した場所に何年後かに実際に骨肉腫が発見されることも多く、全くのでたらめとは言えないことも確かです。
骨折し、金属を入れることで、骨肉腫になる可能性があるということは頭に入れておくと良いかもしれません。
骨肉腫の検査方法は?
骨肉腫が疑われた場合、病院ではいくつかの検査を行って、診断を下すことになります。
検査方法は以下の通りです。
- 視診
- レントゲン検査や CT 検査
- 細胞診
- 組織生検
それではひとつずつ見ていきましょう!
視診
犬の年齢や犬種、発生部位などからおおよその推察をしていきます。
骨肉腫が疑われる場合には、他の検査も併せて行っていき、正確な判断を下していきます。
レントゲン検査や CT 検査
骨肉腫は大型犬などに発症が多く、四肢の骨で発生する症例が多くなっています。
そのためレントゲンやCT検査は骨を直接見られるとあって重要な検査とされています。
骨が破壊されていないか、骨の内部に腫れがないかなどを見ていくことになります。
もちろん画像だけでなく、しっかり検査する必要はありますが、骨肉腫の場合転移が早く、治療を優先することが重要なことから、疑いがある場合には治療を先に始めることがあります。
細胞診
細い針を刺して、組織を調べる検査です。
もちろん採取する組織が小さいため骨肉腫と判断できない場合もありますが、当日に結果が分かることもあり、多くの動物病院でレントゲンと合わせて用いられている検査です。
組織生検
太い針を使ってくり抜いた組織を調べます。
検査の質は他の検査と比べ腫瘍と正確に診断できるメリットはありますが、麻酔が必要になるため費用が高額になり、検査結果が出るまで時間がかかってしまうことがあります。
ですので他の検査で骨肉腫に間違いないと判断された場合には、検査を省略することがあります。
また、腫瘍と診断されない場合でも、骨肉腫でないと明らかに断言できるものではなく、再検査が必要と判断しなくてはならないため、医師の他の検査によって必要か否か判断されることが多くなっています。
骨肉腫の治療は?
骨肉腫と診断された場合、やはり腫瘍の切除が必要となります。
一般的にガンと診断された場合には、その周辺の組織を切除していきますが、骨肉腫の場合、骨に原因があるわけですから、骨からガンを取り除くことが必要になってきます。
主な治療方法としては下記のような治療になります。
- 足の切除
- 抗がん剤治療
- 放射線治療
それぞれ詳しく説明していきます。
第一の治療は足の切除
骨肉腫は転移しやすいこともあり、命を救うためにも足の切断が最初の治療となります。
腫瘍が認められた足を切断し、肉腫のできているすべての部分の切除が理想的です。
早期治療が可能な場合には、患部を切除後、骨を移植して再生を図ったりすることもあります。
しかし、残念なことながら、足の切断を行ったとしても骨肉腫を完全に治癒することは難しいのが現状です。
再発が見られることも少なくありません。
.jpg)
「足の切断は痛みとの決別」
犬の場合、四肢に骨肉腫が多く見られるため、足の切断と言う方法がとられるわけですが、飼い主も切断と聞くと「可愛そうなのでは?」と考えてしまう方も多いと思います。
ですが、この切断は愛犬のためでもあります。骨肉腫は何より激しい痛みを伴うガンです。
そのため、歩くことが困難になるばかりか、進行が進んでしまうと動かなくても痛みを感じるようになります。
足の切断は飼い主にとっても勇気のいる治療ですが、やはり痛みがなくなることを考えると良い治療法とも言えます。
犬は3本足でも器用に歩くことができます。
痛みのない、平穏な生活が手に入るという意味でも良い治療法と言えるかもしれません。
抗がん剤治療
骨肉腫は転移を防ぐため、何より足の切断が最優先となりますが、その後の生存率は極めて低く、切断後1年生存する確率は10%ほど、2年生存する確率は2%と極めて低い現状があります。
そのため少しでも命をつなげるため、術後すぐから抗がん剤治療を行っていきます。
術後抗がん剤治療を行った場合、1年の生存率は40~50%と大きく跳ね上がり、2年後の生存率は10~20%にまでなるため、長く生きられることになります。
4倍から5倍の生存率になりますので、ぜひ行ってあげたい治療と言えるでしょう。
放射線治療
足の切断をせずに、放射線治療を行うこともありますが、この場合患部を治すというよりも痛みを緩和させる意味合いが強い治療となります。
切断を断念せざる負えない、または飼い主の意志で切断しないことを選択した場合に行う対処治療です。
痛みを抑えるためにこの他にも鎮痛剤が使われることもありますが、完全に痛みを抑えることは難しく、余命まで薬を使って痛みを緩和する方法を続けていく必要があります。
骨肉腫の治療にかかる費用は?
骨肉腫と判明し治療してもらう場合、病院によっても異なりますが、多額の費用が掛かってきます。
検査だけでも費用は掛かってきますし、特に骨肉腫は大型犬に多いため、注射を打つだけでも小型犬と比べ高いことが多いです。
一般的に骨肉腫になった時の外科的処置にかかる費用は、30万円から40万円。放射線治療は30万円ほど必要になります。
高額な治療費が必要となってくることもありますので、治療を行う前に医師にしっかり費用についても相談してみると良いでしょう。
費用を抑えた検査方法、治療方法もありますので、確認してみることが大切です。
また、骨肉腫などのガンに備えて犬専用の保険に入っておくと言うのも必要な方法です。
骨肉腫の余命は
足切断後の余命は抗がん剤治療のところでも紹介した通り、決して高いものではありません。
しかし、治療法を選択することで、確実に余命を伸ばすことができると言えるでしょう。
一番のポイントは肺に転移が認められるかと言うところでしょう。
肺に移転しているかどうかで余命も大きく変わることになります。
仮に肺に転移が認められた場合は、3か月から4か月と医師から余命を告げられることも少なくありません。
余命が長くないこととひどい痛みを伴うことから、そのような場合、安楽死を選択する飼い主も少なくないようです。
余命宣告となると、犬にとっても、飼い主にとっても、辛い選択を迫られることになります。
犬は飼い主にどうしてほしいと話すことはできません。
そのためもちろん飼い主が自分の意志でその後の犬の人生を選択することになりますが、自分の意思を反映するよりも、犬の立場でより良い選択をしてあげることが大切と言えるでしょう。
骨肉腫の予防は?
原因を見ても分かる通り、骨折をさせない、体重を増やさせないと言う以外に予防法がないのが骨肉腫です。
予防法を心掛けるよりも早期発見、早期治療が何よりの骨肉腫対策と言えるでしょう。
愛犬の足や歩き方に異変を感じたら、すぐに動物病院に連れていき、詳しい検査を行ってもらうことが大切です。
また、肺などへの転移を避けるためにも、早期治療が延命のカギとなります。
一日でも早く治療を行った方がチャンスも増えることになりますので、できる限り早く犬の異変に気付いてあげられるようにしてください。
まとめ
.jpg)
.jpg)
.jpg)
骨肉腫は悪性の可能性が高いため、非常に生存率の低い病気です。
治療法として有効と言える手段はありますが、肺などへの転移が早いこともあり、発見したときにはすでに手遅れと言うことも少なくありません。
骨肉腫と診断されたときには、医師から余命を宣告されることも多いと思いますが、そうなると飼い主として考えなくてはならないのが、残りの愛犬の命をどうするかの選択です。
痛みをできる限り取り除き延命を選ぶか、もしくは安楽死を選ぶか、飼い主として最大の決断を迫られます。
犬の骨肉腫の末期は痛みの症状もひどく、鎮痛剤などは効力があまりありません。
例え薬を処方されながらの延命となっても、犬にとっては苦悩の時間が続くことになります。
犬は自ら痛みを訴えることもできず、延命するか、安楽死を選ぶかも飼い主に委ねるしかありません。
犬にとって何が一番良い選択なのか、家族みんなで真剣に考えてあげることが大切と言えるでしょう。
また、骨肉腫の治療を行っていく上でも、もしもの時に備えて最後の迎え方について話し合っておくことは大切です。
最悪の事態に陥った時に後悔のない時を迎えることができます。
一緒に長い間過ごしてきた愛犬だからこそ、選んであげたい最期は飼い主それぞれあることでしょう。
最後の残された時間をより良いものにするためにも、飼い主として愛の溢れる治療と選択をしてあげてください。