メラノーマは悪性黒色腫とも呼ばれている、皮膚のメラニン産生細胞(メラノサイト)にできる腫瘍です。
茶褐色、黒色状の腫瘍が見られるため、人間の場合は発見が早いと言う特徴がありますが、犬のメラノーマは被毛の下にある皮膚表面にできることもあり、飼い主でさえ、なかなか気づきにくい病気です。中には色素沈着のないものまでありますので、発見が困難なことも少なくありません。
良性の腫瘍であるメラノサイト-マは単なるほくろの一種だと思って構いませんが、悪性のマリグナントメラノーマの場合、早急に切除を行う必要があります。
愛犬に通常のほくろよりも大きいできものや盛り上がりがあるほくろのようなもの、皮膚との色の境目が曖昧なほくろがあったとしたら、それはメラノーマかもしれません。ここでは、そんな悪性腫瘍であるメラノーマについて見ていくことにします。
メラノーマとは?
よく人は日焼けをすると肌の色が濃くなりますが、その色素を作っているメラノサイトにできる腫瘍をメラノーマと言います。皮膚ガンの一つとされており、悪性黒色腫と表記されることもあります。人間への発生は日本の調査でも10万人に1~2人と少なくなっていますが、犬の場合かなりの確率で発生しています。
メラノーマと言うのだから「人間同様、皮膚の表面にできるのだろう」と言う方もいると思いますが、実は悪性の腫瘍である犬のメラノーマは、口腔内や指、爪などにできることが多く、逆に皮膚や眼球にできる腫瘍は良性のケースが多くなっています。
メラノーマの症状
犬の場合メラノーマは茶から黒色まで様々な色をしています。中には色の全くついていないものもあり、一見しただけではメラノーマと判断を迷うものもあります。色の濃さから悪性ではないかと疑う飼い主さんいますが、実は色と良性・悪性は全く関係がありませんので覚えておくと良いでしょう。
犬の場合、皮膚よりも口腔や指先にメラノーマができたときほど危険です。ほくろと似ている印象をお持ちの方も多いと思いますが、悪性のメラノーマは徐々に大きく成長する特徴があるため、ほくろより大きいことが大半です。
また、プクッと盛り上がった形をしていたり、周りの皮膚との色の境目があまりはっきりしていないものは、メラノーマの可能性が高くなっていますので、動物病院で診てもらうと良いでしょう。口腔内にメラノーマが発生した場合、食欲不振や口臭、過剰なよだれ、出血や腫れなどが見られることもありますので、そういった症状がある場合にもメラノーマを疑い、口腔内をよく観察してみましょう。
そして、メラノーマはとても進行が速いガンです。飼い主が腫瘍を発見し病院を受診するころには、肺や肝臓、リンパ節などに転移が進んでしまっていることもあり、余命を言い渡される残念なケースも多くなっていますので、早期に発見してあげることが大切です。
では、メラノーマの発生は何歳ごろが多くなっているのでしょうか?またメラノーマを発症しやすい犬種などはあるのでしょうか?次からメラノーマの特徴についてみていきます。
メラノーマの発症の特徴
口腔内や指、爪、目の下などに黒色腫ができた場合、悪性のケースが多くなっていますが、その発症はメスよりもオスに多く見られます。年齢も、9歳から11歳ごろの老犬の発症が目立っています。
しかし、メスだからと言って、年齢が若いからと言って、メラノーマの発症が見られないと言う訳ではありませんので、注意しましょう。
メラノーマのできやすいと言われている犬種は、肌の色の濃い犬です。毛の色が濃い犬ほど、肌の色が濃い可能性が高く、皮膚の色素沈着が高い犬の方が発症例も多くなっていますので、注意が必要です。
犬種で言うとコッカ-スパニエル、スコッチ・テリア、ボストンテリアに発症が多く見られますので、現在飼っていると言う方はメラノーマに特に注意してあげると良いでしょう。
メラノーマの原因は?
メラノーマができる原因にはどんなものがあるのでしょうか?次からはメラノーマができてしまう原因について見ていきます。
加齢
発症例を見ても分かるように、老犬にメラノーマの発症が目立っていますので、加齢もメラノーマの原因と考えられます。ガン細胞に打ち勝つ免疫力が衰えたり、体力の低下、自然治癒力が少なくなることでガンの発生が防げなくなるためと言えるでしょう。
9歳を過ぎたころから、メラノーマの発症が多く見られるようになりますので、愛犬が該当する場合には、メラノーマに気を付けてあげると良いでしょう。
紫外線
人間のメラノーマができる原因に紫外線が挙げられるように、犬のメラノーマの原因も紫外線に影響されると言われています。メラニン色素を作るメラノサイトにできるガンですので、当然のことかもしれませんが、紫外線を大量に浴びるとメラノーマができるリスクが高くなりますので、注意しましょう。
紫外線の強い時期の散歩はリスクを上げることになりますので、避けた方が良いと言えるでしょう。
刺激
外部からの慢性的な刺激もメラノーマの原因の一つと考えられます。骨ガムやストレスを発散させるためのおもちゃなども口の中に刺激を継続して与えることになりますので、頻繁に与えることはやめた方が良いかもしれません。
メラノーマは犬の指などにも発生が多く見られますが、これも固いアスファルトによって刺激を受けたことが原因と考えられます。
遺伝性
皮膚の色がもともと濃い色をしていたり、色素沈着が強い犬種の場合、メラノサイトが受けるダメージも大きくなりますので、そうした要因が遺伝されます。
また、ガンになりやすい遺伝子を受け継いでいる場合にも、メラノーマのリスクが高くなると言われていますので、やはり遺伝も原因の一つと言えるでしょう。
原因はこれだけではありません。ホルモン異常や免疫不全、食事に含まれる添加物などメラノーマを引き起こす原因には様々なものが考えられます。
はっきり証明されているわけではありませんが、メラノーマを発症させないためにもこれらの原因に注意を払うことは大切です。
メラノーマの検査方法
メラノーマかもしれない腫瘍を見つけたら動物病院で診察をすることになりますが、次のような検査が行われます。
視診
メラノーマの診断方法も他のガン同様、年齢や犬種、発生場所などを確認し、医師が目視で観察します。特徴的なメラノーマの場合、この段階で間違いないと診断されることも少なくありませんが、念のため組織検査を行うのが一般的です。
組織生検
視診で疑わしい場合には、組織検査のためにメラノーマの一部、もしくは全部を摘出し、検査に回しますが、判定はあくまで疑いがあるか、もしくはメラノーマと確定できるかに留まります。
メラノーマでないと判定が下るわけではありませんので、大丈夫だったとその後の経過観察を怠ってはいけません。患部が大きくならないかなど、医師の指導のもと経過をしっかり観察していきましょう。また必要であれば再検査をお願いしてみましょう。
レントゲン・CT検査・エコー検査
肺などへの転移を確認する場合には、レントゲン検査を行います。ただし1㎝のサイズがなければ判別は難しくなりますので、CT検査を行うこともあります。
CT検査のメリットは、転移の有無を知るだけでなく、これからの治療方針、余命が正確にわかる点です。費用は高額になりますが、転移に伴う治療が本当に必要なものなのかを判別するのには適した検査と言えます。
また、肺以外の転移にはエコー検査を行っていきます。リンパなどへの転移も確認できます。
メラノーマの治療法
メラノーマの場合、主に手術が一般的な治療法になります。抗がん剤や放射線治療はあまり効果がないため、勧めていない病院も少なくありません。
根治手術
根治手術はメラノーマを完治させるための手術です。再発や転移を防ぐために腫瘍を含め、周囲の組織まで切除します。口腔内のメラノーマであれば、下あご、上あごを切除します。
また、足に発生したメラノーマの場合には足を切断する手術が行われます。完治が目的の手術ですが、再発の可能性などが全くないわけではありません。
外見も大きく変わってしまい、普通の食事ができないなどのデメリットもありますので、医師と家族で相談して決めることが大切です。
姑息手術
メラノーマの症状を緩和させるために行う手術です。腫瘍の一部を取り除きQOLを改善させるために行います。腫瘍が邪魔で呼吸が困難な場合や食事がとれないケース、出血がひどく貧血になってしまうケース、膿がひどく臭いを取り除くために行うのが一般的です。
完治は望めませんが残りの生活をより良いものにするための手術です。姑息手術として抜歯を行うこともあります。
抗がん剤治療
メラノーマは抗がん剤の治療があまり効かないため、勧めない病院も少なくありません。ガン幹細胞が多いガンであるため、効果よりも副作用が上回ってしまうことが、理由の一つとなっています。
貧血気味、肝機能・腎機能低下がある場合には、より体調を崩すことになりかねませんので、デメリットを考えた上で医師とよく話し合い実施していくか、決めていくと良いでしょう。
放射線治療
手術と言う手段が選択できない場合に有効な治療法です。しかし、この治療で完治することは皆無と言えます。あくまでも延命のための、治療法と言うことを頭に入れておく必要があります。
犬の放射線治療は数回で大量の放射線を照射するため、当てる場所が目の付近であれば、視力低下が見られます。また、口腔内であれば味覚障害などの例もありますので、デメリットを理解した上で治療法を選択するようにしましょう。
代替え療法
メラノーマの一般的な治療法を行えない場合、犬へのダメージが少ない方法を選択したい時などに選ぶ治療法です。温熱治療器での腫瘍を焼くなどの方法があります。
病院によって様々な治療法を提案していますので、こうした治療法を考えてみることも大切です。何より、治療することでQOLを低下させてしまう、元気がなくなってしまうことは避けたいと考えるのであれば、メリットの大きい治療法と言えるでしょう。
メラノーマの寿命
メラノーマは進行の早いがんのため、発見が遅いと肺や肝臓、リンパ節などに転移していることも少なくありません。そのため医師から余命を告げられることもあります。
余命宣告は数か月と宣言されることが多く、残りの時間をどう犬と過ごしていくか考えることになります。肺などに転移している場合などは症状もひどく、安楽死を選ぶことも考える必要が出てくるかもしれません。
いずれにしても、余命をどう過ごしていくべきか家族で話し合い、後悔のない選択をしていくことが大切です。
メラノーマの予防
メラノーマの発症を防ぐためには、紫外線、外的刺激から犬を守ることが大切です。
サマーカットなどは、皮膚炎を患っている犬や夏場、毛があることで暑がる犬には、有益なカット法ですが、紫外線の影響をどうしても受けやすくなります。症状に合わせてカットを少し長めにしてもらったり、紫外線の多い時間帯は家で過ごさせてあげるなど、対策をとっていくと良いでしょう。
また、メラノーマは口腔内や足先などにできやすいため、できる限り刺激を受けないよう工夫してあげると良いでしょう。固すぎないおもちゃを与えたり、外を散歩する時にはソックスや靴を履かせるのもメラノーマ予防のための対策と言えます。
まとめ
メラノーマは、進行が早く、すぐに転移してしまう可能性がある強いガンです。できる限り発症させないよう、紫外線や刺激物から犬を守ってあげることも大切ですが、早期に発見し、病院で治療を行っていくことが何より重要です。
犬は被毛があるため、飼い主が発見することも難しいですが、できるだけ犬と触れ合う時間を設け、定期的にメラノーマを発症していないかどうか観察していくことが一番の予防策と言えるでしょう。メラノーマのできやすい部位や年齢などにも着目して、早期発見に努めましょう。
また、愛犬がメラノーマの発症の多い犬種と言う場合には、特に注意深く口の中などまでチェックしてください。メラノーマに限らず愛犬を注意深く観察することは、他のガンの早期発見のためにも大切なことですので、今日からぜひ心掛けてみてください。