椎間板ヘルニアという病名は、皆さん一度は耳にしたことがあるかと思います。
人間の病気として聞くことが多いですが、犬でも犬種に関わらず発症することはあり、特にダックスフンドやコーギーなどの胴長短足のワンちゃんがなりやすい病気です。
ヘルニアの進行段階によって症状や治療方法が異なり、進行の段階が進むにつれて痛覚が失われるなど最終的には麻痺の状態になってしまいます。
早期発見によって悪化を防ぐことが出来ますので、原因と症状、その治療方法を知って対処できるようにしておきましょう。
椎間板ヘルニアってどんな病気?
首から腰にかけての骨を総称して背骨と呼びますが、背骨は一本の長い骨ではなく小さい骨が並んで成り立っています。
その小さい骨と骨の間にクッションの役割としてあるのが「椎間板」です。
そして「ヘルニア」というのは、臓器の一部が通常ある場所からずれている状態のことなので、椎間板ヘルニアとは、クッションの役割を果たしている椎間板が元ある場所からずれている状態のことを言います。
椎間板がずれるとどうなる?
背骨の間のクッションである椎間板は、繊維輪(せんいりん)と呼ばれる言わばクッションカバーと、クッションの中身にあたる髄核(ずいかく)と言うゼリー状の組織から出来ています。
この繊維輪が何らかの理由で破れてしまうことで、中の髄核が飛び出し、背骨に面している神経組織や脊髄を圧迫して痛みが生じます。
背骨は首から腰にかけての骨の総称で、椎間板はその間にあるクッションなので、背骨のどの部分の繊維輪が破れるかによって痛みの出る箇所は異なってきます。
ワンちゃんの場合、首付近よりも背中から腰にかけて発症するケースが多く、全体の約85%を占めています。
椎間板ヘルニアになる原因は?
ヘルニアが起こるには様々な原因がありますが、椎間板ヘルニアの場合、「椎間板」が破れるなどの損傷や変形が原因です。
椎間板は背骨間でクッション材の役割を担っていますが、過度の負担がかかることで損傷されます。
例えば、ご自宅のクッションや座布団も、長い時間座っていると圧力で変形したり潰れてしまったりすることがあるかと思いますが、同じように椎間板も大きな圧がかかると変形したり潰れたりしてしまうのです。
椎間板に圧力がかかる原因や損傷の元になる主な原因は以下のようなものが考えられます。
- 外部から受ける圧力
- 肥満・太り気味
- 老化現象
- 犬種による発症
外部から受ける圧力
外圧の場合の場合、交通事故、高いところからの転落、もしくは衝突したりと体に急な強い力がかかることで繊維輪が破裂したり、髄核が飛び出すことがあります。
他には、激しい運動によって椎間板が変形することがあります。
全力疾走や跳んだり跳ねたり、体を捻るなどの動作でも起こることがあります。
肥満・太り気味
体の内部からかかる圧力として椎間板ヘルニアを発症する原因は、肥満によるものです。
背骨は頭や胴体の重さを支える部分となりますので、体重が重くなればなるほど、背骨の中でクッションの役割をしている椎間板には大きな負荷がかかります。
ですので、体の大きさに比べて体重の重い子ほど椎間板ヘルニアになる可能性は高いです。
老化現象
椎間板を形成している繊維輪はコラーゲンによって出来ています。
コラーゲンは加齢と共に減少していくため、老化によって椎間板が弱くなってしまい、これまで通り自分の体重を支えきれず繊維輪が変形したり損傷したりしてしまうことがあります。
犬種による発症
椎間板ヘルニアはすべての犬種に発症する可能性がありますが、中でもミニチュア・ダックスフンドやコーギーなどいわゆる胴長短足の犬種に起こりやすい病気です。
また、ダックス系のワンちゃん以外にも、軟骨異栄養症性犬種のワンちゃんは椎間板ヘルニアを発症しやすいため注意しましょう。
軟骨異栄養症性犬種とは?
軟骨異栄養症とは軟骨細胞の異常が原因で本来起こるべき骨の成長が促されないことで、低身長や手足が短くなったりするなど全身に多くの症状があらわれる病気です。
軟骨異栄養症性犬種とは、生まれつき軟骨異栄養症の遺伝子を持っている犬種のことを言います。
軟骨異栄養症の遺伝子を持っていることで椎間板ヘルニアを発症しやすくなります。
胴長短足としてお馴染みのミニチュア・ダックスフンドやコーギーも、実は軟骨の形成不全の影響で手足が短いため、胴体が長く見えるのです。
この軟骨異栄養症の遺伝子を持つ犬種は他に、フレンチブルドック、トイプードル、シーズ、パピヨン、チワワ、ヨークシャー・テリア、ビーグル、ペキニーズ、パグ、コッカースパニエル、狆などの小型犬種、また短足になるように掛け合わせられた犬種が当てはまります。
軟骨異常は、骨の成長期である生後6ヶ月~2歳の間で変形が始まり、若年齢期である2~7歳では、すでに椎間板ヘルニアが発症する傾向にあり、その発症率はミニチュア・ダックスフンドで約40%と非常に高い確率となっています。
椎間板ヘルニアの症状と進行段階(グレード)は?
椎間板ヘルニアになると神経組織を圧迫する痛みから様々な症状があらわれます。
また、犬の椎間板ヘルニアでは病気の進行段階を表す「グレード」があります。
1~5までのグレードでは痛みや症状にどのような違いがあるのかご紹介します。
歩く、走るなどの移動や患部に物や飼い主さんの手が触れたりすると痛みを感じます。
- 歩き方がおかしくなる
- 散歩を嫌がるようになる
- 階段などの段差の上り下りが不可能になる
- ブラッシングで痛がったり声を上げたりする
また、痛みによって間接的な症状があらわれる子もいます。
- 食欲がなくなる
- トイレ(排便、排尿)をしなくなる
- 呼吸が荒い
- イライラし出す
- 震える
歩くことは出来る状態であるものの、徐々に麻痺が出てくるため足に力が入りにく、歩き方がおかしくなる。
- 後ろ足に力が入らない(踏ん張りきれない)
- ふらつきが出てくる
- 足をひきずる
自分の力では後ろ足を動かすことが不可能になる。後ろ足の麻痺が強い場合は前足のみで歩くようになる子も。
- 後ろ足の感覚がなくなってくる(自分で動かせない)
- 腰から下が不自由そうになる
- 後ろ足をひきずり前足で歩く
下半身に力が入らないため、排便や排尿が自力で出来なくなる。
- 便意や尿意を我慢できない(垂れ流しの状態)
足腰を含め下半身の痛覚麻痺が起こる。
グレード5の状態では深部痛覚まで麻痺するため、足を引っ張っても掴んでも、何の痛みも感じない状態になる。
- 痛覚がなくなる(完全麻痺)
椎間板ヘルニアの治療方法は?
ワンちゃんに椎間板ヘルニアの症状があわられた場合、どのような治療方法があるかみていきましょう。
症療法(内科的治療)
ヘルニアのグレードが浅い場合(軽度)であれば、症状を軽くするための対症療法がメインになります。
ステロイド系の薬で患部の痛みを和らげることが多いです。
ただし、ステロイド系の薬は1~2週間といった短期的な投薬であれば構いませんが、長期的には副作用があらわれる恐れがあります。
非ステロイド系の投薬が望ましいので、治療の際には病院で相談してみましょう。
手術療法(外科的治療)
ヘルニアのグレードが高い場合(重度)や対症療法で改善が見られない場合には、外科手術によって患部を取り除く治療を行います。
神経組織を圧迫している髄核を除去する手術で、最近ではレーザーによって患部を切除することが多いです。
レーザー治療は身体の負担も少なく傷も最小限で済みますが、やはり脊髄神経近くの切除手術のため、不随や出血多量での死亡など最悪のケースも含め万一の事態も考えなければなりません。
かかりつけの病院で処置を行っていない場合もありますので、その場合は大学病院や動物医療センターなどの高度医療が可能な施設の紹介を受けてください。
自宅で行う対処方法と予防
病院でヘルニアの治療をしてもらった後は、症状悪化や再発を防止するために、飼い主さんが自宅で対処してあげます。
自宅での対処療法なども紹介していくことにしましょう。
- 激しい運動を避ける
- 温熱治療
- 屈伸運動
- 食事制限をする
- 室内環境を変える
- 排泄補助
- 歩行補助
- 鍼治療
激しい運動を避ける
外圧がかかることで症状が悪化、再発しないよう、まずは激しい運動を避けるようにします。
普段の散歩量などで運動制限をしてあげてください。
外を歩かせるとどうしてもダッシュしてしまうワンちゃんには、プールでの水泳がおすすめです。
水泳であれば足腰に負担をかけずに全身運動が出来ますし、ヘルニア治療後の良いリハビリにもなります。
ただし、長時間水の中にいることで、患部を冷やしてしまう恐れがありますので、泳ぐ時間は30分程度、長くても60分までにしておきましょう。
水泳の後は、温浴で身体を温めることも忘れずに行なってください。
温熱治療
患部を温める温熱治療はヘルニアに効果的です。
ご自宅で温かいシャワーをかけてあげたり、温かいお風呂に浸からせてあげましょう。
浴槽に入れてあげる場合は患部が出ないように気をつけます。
首周辺のヘルニアで湯船にお湯をたくさん溜められない時には、患部が冷えないよう温めたタオルをかけたり、シャワーで温めてあげるようにします。
飼い主さんがワンちゃんを水中で浮かしてあげるように手で支えてあげるのも良いです。
温浴の後は、せっかく温めた身体が冷えてしまっては意味がないので、しっかりと体を乾かしてあげます。
屈伸運動
屈伸運動は麻痺してしまった足のリハビリとして飼い主さんと一緒に行います。
ワンちゃんを仰向けに寝かせた状態にし、足を持って左右交互に屈伸させます。
自転車を漕ぐような動きで補助してあげるのが良いでしょう。
足の動かし方を思い出させてあげるために行うリハビリなので、嫌がる時には無理をせず、疲れてしまうまでは行わないようにします。
その日の愛犬の体調や気分を観察しながら、根気よく続けてあげてください。
食事制限をする
肥満や太り過ぎが原因の場合には、食事制限などで減量し、背骨の負荷を減らします。
ただし、症状が改善しないうちに食事制限をしてしまうと、投薬の効果などが分かりにくくなってしまうので、制限をする場合には症状が良くなってから行います。
また、一気に色々な変化を与えるとワンちゃんにとってもストレスです。
ストレスや環境の変化から違う病気になってしまう可能性もあります。
影響が少ない範囲で、徐々に変更してあげるようにしましょう。
室内環境を変える
患部に今以上の負担をかけないようにすることが重要ですので、室内犬の場合にはフローリングにカーペットを敷いたり、段差の上り下りに注意してあげてください。
排泄補助
ヘルニアが重症の場合、自力で排泄が出来ない状態となります。
治療によって患部の原因は取り除くことが出来ますが、一度麻痺してしまった神経を元に戻すことは不可能です。
排泄機能が低下してしまった場合、人工的に排泄を促すためにカテーテル(細い管)を通す手術を行いますが、術後もお腹を押して上げたり浣腸を使ったりと、飼い主さんの介助が必要となります。
歩行補助
下半身の麻痺で運動機能が失われてしまっても、最近では犬用の車椅子で歩行を補助することが出来るようになりました。
麻痺がなかなか改善しない場合も、散歩を楽しめるよう補助器具を活用してあげると良いでしょう。
鍼治療
動物専門の鍼治療を行なっているクリニックがあります。
1回あたりの費用は少し高めに感じますが、外科手術を行うより総合的には金銭的負担が抑えられるということと、通うことで症状の改善効果も見込めると言われているので、治療法の一つとして検討する飼い主さんもいらっしゃいます。
椎間板ヘルニアを予防方法する方法は?
老化や遺伝性のある病気なので完全に防ぐことは難しいです。
ただし、犬種によってなりやすいということを知っていれば、骨の形成時期に無茶な運動や負担のかかるジャンプなどを飼い主さんが制御することは出来ますし、首に負担がかからないように散歩ではハーネスを使うなど、小さい積み重ねで愛犬の健康を守ることは可能です。
室内で飼う小型犬は、運動量と食事量が見合っていないケースが多々あり、肥満になりやすい傾向もあります。
走り込んだり、負担のかかりやすいジャンプや飛び降りなどを避けながら適切な運動量を担保し、食事は与え過ぎに注意してあげることが大切です。
栄養バランスが気になる時には、サプリメントなどを上手に取り入れることで食事をあげ過ぎずに改善出来ることもあります。ご自宅で出来る環境改善は色々ありますので、愛犬のために取り組んでみてください。
まとめ
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背骨の間のクッションである椎間板は、繊維輪(せんいりん)と呼ばれる言わばクッションカバーと、クッションの中身にあたる髄核(ずいかく)と言うゼリー状の組織から出来ています。
この繊維輪が何らかの理由で破れてしまうことで、中の髄核が飛び出し、背骨に面している神経組織や脊髄を圧迫して痛みが生じます。
背骨は首から腰にかけての骨の総称で、椎間板はその間にあるクッションなので、背骨のどの部分の繊維輪が破れるかによって痛みの出る箇所は異なってきます。
ワンちゃんの場合、首付近よりも背中から腰にかけて発症するケースが多く、全体の約85%を占めています。