動物病院で血液検査をした結果AST(GOT)の数値が標準よりも高いと言われても、AST(GOT)とは何なのか、また、高いとどんな病気が心配されるのかよく理解できていない飼い主さんも多いはずです。
AST(GOT)に異常値がある場合、愛犬の肝機能になんらかの異常がある危険性があります。
愛犬の健康を守るためにも飼い主さんは血液検査の情報をしっかりと把握して、どんな病気の疑いがあるのか、どのようなことに気をつけるべきかということを知っておくことが大切です。
今回は、犬の血液検査におけるAST(GOT)についてまとめてみました。
AST(GOT)とは?
ASTはアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼと言い、GOTとはグルタミン酸オキサロ酢酸トランスアミナーゼの略です。昔はGOTという言い方の方が主流でしたが、最近では標準化されASTと言うことが多いのでここでは以後ASTで統一します。
ASTは体内では主にアミノ酸の代謝に関わる酵素で、本来、肝臓、心筋や骨格筋と言った筋肉、赤血球に多く含まれています。
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正常値は20~50U/Lほどです。
血液検査でASTがこの数値を下回っていても問題はありませんが、正常値の範囲を超えて高い数値が出ている場合は体の中で何らかの原因により異常が起こっていますので注意が必要となります。
血液検査でASTの値が高いとき
ASTは、肝臓や心筋、骨格筋、赤血球に多く含まれている成分ですが、血液検査でASTの数値が正常範囲を超えている場合は、これらの器官のいずれかが損傷を受けていることが原因で数値が高くなっていることが考えられます。
ASTの正常範囲は20~50U/Lほどですが、この範囲を超えている場合は、肝臓の肝細胞へのダメージ、筋肉の組織の炎症、溶血によって赤血球がダメージを受けているなどの原因が疑われます。
肝臓の病気が疑われる時はALTも確認する
ALT(GPT)とは、アラニンアミノ基転移酵素(アラニンアミノトランスフェラーゼ)と言います。
ALTは肝臓の細胞で作られています。
犬の場合、肝臓から分泌される酵素のうち特にアミノ酸の代謝と関わりが深くあります。
ALTは肝臓の他に腎臓にも含まれています。
ALTの血液検査での正常値は20~70U/Lですが、本来血液中にはあまり多く存在しないというのが正常な状態です。
そのため、血液検査で低い数値が出ても問題ありませんが、数値が高いときは体の異常、特に肝臓がかなり弱っている可能性があるので注意が必要です。
獣医師はASTの値が高い場合、血液検査項目のALTの数値を確認します。
血液検査において、ALTよりもASTの方が高い場合やASTとALTの両方の値が高いという場合は、肝臓に疾患があると考えてよいでしょう。


ASTとALTの違いと肝臓疾患
ASTとALTはどちらも肝臓の疾患に関わる血液検査の数値で似ているので分かり難いですが、ASTとALTの違いで言えば、ASTの数値は、肝細胞の膜障害くらいでは本来は高い数値が出ないという点です。
肝細胞が壊れるとASTが肝細胞の中から出てくるのでASTの血液中の濃度が上昇します。
したがって、ALTと共にASTの数値が高い場合、肝臓の細胞が壊されるという肝細胞壊死というような状態になっている可能性が高くなります。
血液検査の数値で肝臓疾患を疑う場合は、ASTとALTをセットで見て診断をすることになります。
犬の場合、ALTの数値は、アミノ酸の不足や抗がん剤の服用、ダニなどを駆除する駆除薬であるフロントラインを使用することによって高くなる場合もあります。
ASTとALTが高い場合に考えられる肝疾患
ASTとALTが高い場合は以下の病気が考えられます。
- 肝硬変
- 肝臓がん
- 急性肝炎
それぞれについて詳しく見ていきましょう!
肝硬変
肝硬変になると肝臓が硬くなって機能がなくなってしまいます。
肝硬変は病名ではなく、その前に何らかの肝臓疾患があり、その疾患が徐々に酷くなって肝機能がどんどん低下していった結果、肝臓が硬くなり機能しなくなる肝硬変という状態になります。
肝硬変というのは、肝臓疾患の末期の状態であることを言いますので、肝硬変であると診断が下ると非常に重篤な症状であると認識する必要があります。
肝臓は体に必要なビタミンやホルモンを作ったり、消化酵素を分泌します。
また、炭水化物、脂質、タンパク質を合成したり、分解したりもします。
体内に有害物質が侵入した場合、その物質を解毒するのも肝臓の役割です。
このため、肝臓は人間の生命維持には欠かせない重要な臓器ですが、本来は非常に再生能力が高く、肝臓全体の80パーセントの細胞が壊れない限り、肝機能をほぼ正常に保つことができます。
80パーセントもの肝細胞が壊れても機能が正常であることは非常に良いことですが、言い換えると80パーセント以上の肝細胞が壊れない限り肝臓疾患があっても症状として表になかなか出てこないので発見しにくいという側面があります。
肝細胞は一旦壊れると元には戻らない細胞ですので、徐々に症状が悪くなっていくと取り返しのつかない段階まで病状が進んでしまい、破壊された肝細胞が繊維化していって肝臓が硬くなり肝硬変になります。
肝硬変になると肝臓に負担をかけないように消化の良いものを少量ずつ食事の回数をふやしてあげたり、タンパク質や塩分制限をする食事療法をしたり、肝炎に合わせて、免疫抑制剤や抗酸化剤、亜鉛、銅キレート剤というような薬物療法をします。
また、お腹に水が溜まってくるので愛犬が苦しそうにしている場合は利尿剤を使って水分を出したり、お腹に注射針をさして水を吸い取る治療をすることもあります。
しかし残念がら、いずれの治療も完治を目指す治療ではありません。
肝硬変であるということは愛犬の余命はわずかであるという覚悟が必要です。
肝臓がん
肝臓がんは肝臓そのものにできる原発性のものと、血液に乗って体の他の場所にあるがん細胞が肝臓に転移してなる転移性のものがありますが、肝臓は本来非常に丈夫な臓器であり、疾患があってもなかなか症状として表面化しないことが災いし、肝臓がんでも末期症状でお腹に水が溜まるのでお腹が張ってきてから飼い主さんが異常に気づくということが良くあります。
肝臓がんでも初期のころに発見することができると手術や治療が出来ますが、末期になって肝臓がんが見つかっても手の施しようがないということになります。
このため、定期的に動物病院で血液検査を受けるなどして日頃から健康のチェックをしっかりしてあげることが大切になってきます。
何か他の症状で動物病院を受診したときなどに血液検査をしていればALTとASTの数値から肝臓がんを早期発見することが可能になります。


急性肝炎
急激に肝機能が下がる場合を急性肝炎といいます。
急性肝炎の場合は、血液検査でASTとALTの両方の値が通常範囲をはるかに超えた状態になりますのですぐに急性肝炎であるという診断がつきます。
急性肝炎は細菌や寄生虫などの病原体が原因のものと、肝臓の外傷から化膿して発症してしまうという2種類に分かれます。
初期症状は食欲不振や嘔吐などですが、症状があまり表に出にくいので飼い主さんは気がつかないで放置してしまっている場合があります。
臓器が外傷を受けているときは吐血や血便などの症状がありますし、黄疸が出てくると目や歯ぐきが黄色くなってきます。
体調が悪いことで病院にいって血液検査をして急性肝炎であることはすぐに分かります。
食事療法や投薬、輸血と共に、急性肝炎の原因になっている疾患の治療も行います。
急性肝炎は早期に治療をおこなうと完治しますが、しばらく放置することで慢性肝炎になったり、重篤な肝臓病になるので気をつけましょう。
ASTとALTが高い場合でも肝疾患でない場合
ASTとALTの数値は肝臓の機能を調べるために用いられる数値として有名ですが、ASTとALTの数値が高いから絶対に肝臓が悪いというわけではありません。
例えば、歯肉炎、糖尿病、甲状腺、副腎、心臓、腸炎、膵炎などがある場合もASTとALTの両方の数値が上昇します。
また、食事内容や薬品の服用によって上昇することもあります。
肝臓疾患ではないのにASTが高い場合
ASTが高いのに肝臓疾患ではないケースもあります。
それが以下の2ケースです。
- 筋肉の障害(打撲など)
- 赤血球が壊れた場合(溶血)
それぞれ見てみましょう!
筋肉の障害(打撲など)
筋肉にはASTが存在していますが、CPKという酵素も存在しているので、筋肉の障害がある場合、ASTとCPKの数値が共に上昇します。
このため、ASTが高いのに肝臓の疾患でない場合、ASTとCPKの数値の両方をチェックして診断をします。
赤血球が壊れた場合(溶血)
血液成分のうち、赤血球の中にもASTが存在します。
このため、採血し分離した時に赤血球が壊れる溶血になるとASTが出ることによって、血液検査においてASTが上昇することがあります。
ただし、このような溶血においてASTが上昇する場合は軽度な上昇であることがほとんどです。
ASTが高いときの食事は?
ASTの数値が高いという場合、肝臓の疾患であることが多いです。
肝臓の役割は体内に入ってきた毒素を分解したり、栄養素を分解したり、貯蔵したり、血液の主成分を作ったりとその働きは多岐に渡っていますが、犬の場合、病気の原因になっているのは食事であることが多いので食事は非常に重要です。
食事では肝臓に負担をかけないように以下の3点に気を付けましょう。
- タンパク質と炭水化物を控える
- 野菜や果物を食べさせる
- 肝臓病専用のドッグフード(療法食)を利用する
では、それぞれについてみていきましょう!
タンパク質と炭水化物を控える
肝臓に負担をかけないようにタンパク質と炭水化物を食事で控える必要があります。
しかし、食事を気にかけるあまり、タンパク質や炭水化物を全く食べさせないようにしてしまう飼い主さんがいますが、タンパク質や炭水化物も栄養素として必要なものなので全くカットしてしまうことは逆効果です。
タンパク質が肝臓の栄養成分でもあるので良質のタンパク質を愛犬の肝臓の状態を考えながら適度に与えることが大切になってきます。
どれぐらいのタンパク質や炭水化物を食事として与えるかということは、動物病院の獣医さんとよく相談して決めることが必要ですが、食事を少量に分けて今までよりも回数を多くして少しずつ食べさせてあげることにより肝臓に負担がかからなくなります。
野菜や果物を食べさせる
野菜や果物はタンパク質が少なく、ビタミン類を多く含むのでASTの値が高い愛犬には良い食材です。
ビタミンA、C、Eは抗酸化作用があるので肝臓病を癒すサポートをしてくれます。
また、ビタミンB類はタンパク質の消化や代謝を助けます。ブロッコリー、にんじん、小松菜、セロリなどを意識して与えるようにしましょう。
ただし気を付けないといけないのは、肝臓は農薬などの化学物質を分解することで負担がかかります。
できるだけ無農薬の体に優しい食材を与えるようにしましょう。
肝臓病専用のドッグフード(療法食)を利用する
愛犬の体調を気づかって手作りで食事を作ることは大切ですが、毎日のことなので飼い主さんの負担も大きくなってきてしまいます。しかし、市販の普通のドッグフードをそのまま与えてしまうと炭水化物やタンパク質を必要以上に摂取してしまうことになります。
また、疾患のある愛犬の食事の栄養を考えることに自信がない場合は、肝臓病の愛犬のために開発されたドッグフード(療法食)があるので利用してみると良いでしょう。
まとめ
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動物病院で血液検査をしてASTの値が高いと言われた場合、ASTは肝臓や心筋、骨格筋、赤血球に多く含まれている成分ですので、これらの器官に何らかの問題があるためにその成分が血液中に出てきてしまっていると考えます。
特にASTが高く肝臓疾患が懸念される場合は、ALTの値をチェックして、両方が基準値よりも高い場合は肝臓関係の疾患が疑われますし、他にも歯肉炎、糖尿病、甲状腺、副腎、心臓、腸炎、膵炎なども疑いもあります。
また、筋肉の障害や赤血球が壊れてもASTの数値が上昇します。
体調の変化だけではなかなか疾患に気がつかないこともあるので定期的に血液検査を行い健康のチェックをしてあげることが大切です。